長男が幼稚園の年長組になった年の4月、
住んでいたアパートのドアの外、電気メーターの上にツバメが巣作りをした。
もうずいぶんと昔の話になってしまった。
ドアを開ける度に何羽かのツバメが、前の階段を飛び交っているので、
もしやと思っていたら、どうやらお気に入りの場所に選ばれたらしい。
邪魔することもないと思い、様子見していたらほどなくして小さな巣が出来上った。
こういう機会はめったとないので、観察しようとおもちゃのバットの先に手鏡を
くっつけて観察道具をつくり、ツバメの留守を見計らっては長男やその友だちと
いっしょに巣を覗いたりした。
そのうち卵が孵化しヒナのにぎやかな声が聞こえるようになった。
今でも覚えているのは、パパとママはいつも近くで夜を過ごしていたこと。
必ず巣の近くで二羽が寝ている。火災警報機の上くらいしか止まるところなかったんだけど…。
人間の世界は宵の口でも、彼らはぐっすり。朝が早いからね…。
昼間はヒナのお食事に忙しい。巣のお掃除もしてたかな?
親鳥たち決して巣のなかでフンはしない。クルッとおしりを外にむけて…。
だからフン害はちょっと困ったけどそれは仕方がない。
ヒナたちも大きくなってくると、巣がかなり狭い。
ギュウギュウ詰めでも楽しいわが家ってとこかな。
みんな同じ顔をしていてかわいい。
私たちも愛着が湧いてきて、家族の一員のような気がしていた。
やがて巣立ちの時。そのころには親と子の見分けがつかなかった。
へやの窓から見える電線の上では、いつも何羽かのツバメがおしゃべりして
いたっけ。
たしか次の年も来たと思うけど、何年か経った頃にはカラスやヒヨドリたちが
邪魔をしに来てそのうち来なくなってしまったみたい。
ツバメが巣作りする家には、幸福が来るとか来ないとか
そんな言い伝えがあったようななかったような……だけど
不思議なことに、その春、私は妊娠した。忘れかけてたような出来事だった。
それもよりにもよって双子だったから、びっくりした。
だからあのツバメファミリーのことは忘れない。
今日ツバメの写真を撮ろうと近くを歩いていたけど
確かにこの辺りも、昔と比べるとツバメの姿が減ったかもしれないな。