その人はコーヒーカップ片手に部屋に入ってきた。
「砂糖もらえる？」
先輩の女性は「はいはい」と角砂糖をカップに入れた。
まだ入社したての頃のこと。
「今度新しく入った○○さんです」
「こちらは××係長ね」
初めての出会いは確かこんな感じだった。
砂糖だけもらってどうするのかな？
私にとって不審な人だったが、コーヒーはとなりの課でいつももらっているらしい
ことがわかった。
あの人の仕事は何なんだろう？
コーヒーカップ持ってあちこちの課を渡りあるく。
はてなマークがうかんだが、スリムでちょっと男前だったので、
面食いの私は速攻で興味を示すところとなった。
しばらくして耳に入ってきたのは
「あの人には気をつけるように」という話。
「プレイボーイ？ 気をつける？」はてなマークは増えて
私は尚更興味を持った。
大人の社会はけっこう恐いもので、噂には必ずといっていい程
尾ひれがついた。
誰かがふられて自殺未遂をしただの、裁判沙汰の夫婦問題があるだの
ある意味ワクワクするような話が囁かれる。
ここは芸能界か…？
プレイボーイの実体については、さだかではなかった。
でも私にはそんな悪い人には見えなかった。
だから余計にタチが悪かったのかもしれない。
月日は流れ、今ではその欠片も感じられなくなった人がそばにいる。
残念無念……。
